SNSのプロフィール欄に「相互無償で撮影をさせてもらいます!」といった内容が書かれているのをよく見るが、僕はその書き方に違和感を感じている。
その理由は「相互無償=無料で撮影するからあなたも無料で受けてね」という意味が込められているような気がしてならないからだ。
モデルからしてみれば、SNSやネット上に自分の姿が公開され、その写真がカメラマンのアピールの素材として使われるものになる。
一般的に考えると撮影を受けてくれたモデルには、「撮影した時間分の費用」「撮影した写真を宣伝に使用する費用」を支払うものである。
なのにカメラマン側の都合で「相互無償でお願いします」と依頼がきたら良い気はしないだろう。
もちろんモデル側の都合で無償にしているモデルもいるが、フリーモデルと言っても撮影するための時間をつくらなければいけないし、交通費もかかってしまう。
カメラマン側から「相互無償」を申しでるのではなく、まずはモデルに「無償でも受けてもらえるのか」相談することが大切ではないだろうか。
今回の記事は、これからカメラマンとしてフリーモデルにポートレート撮影をお願いするときに、気をつけてほしい「相互無償」について話したいと思う。
目次
当記事を読む前にご理解ください
冒頭からとても失礼な書き方になってしまったかもしれないが、これからポートレート撮影を依頼するカメラマンとしてとても重要な話になる。
この記事を書くにあたって、僕自身が「相互無償」で撮影をお願いしたことが原因でモデルに不快な思いをさせてしまった経験があり、それを元に話している。
そこをご理解いただいた上で、最後まで読んでほしい。
もちろん個人的な理由があって「相互無償」で受けてくれるモデルもいるので、無償が100%悪いということではない。
たとえば次のようなモデルの場合。
- 副業が禁止で有償で受けることができないモデル
- 趣味程度にゆるっと楽しく撮影がしたいだけのモデル
モデルとカメラマンがお互い納得した上でなら「相互無償」でも、ポートレート撮影をするのはいいことである。
今回の記事のポイントは、これからプロのカメラマンを目指すのであれば、ある程度費用をかけることも大切で、そこにかけた費用は必ず自分の価値につながるといった話になる。
相互無償では価値はつくれない
カメラマンとして、
「少しでも多くのモデルを撮影して実績を上げたい!」
「カメラマンとしてのブランドを高めたい!」
それはとても良いことだと思う。
カメラマンの実績をつくるために、SNSでポートレート撮影の依頼をするカメラマンも多いのは事実。
モデルにとっても、撮影実績をつくるために夢中になっているカメラマンと一緒に写真を撮ることは、とても楽しいものだろう。
だけど、カメラマンとしての常識はもっておくべきである。
モデルに「作品撮り」や「ポートレート撮影」を依頼する場合は有償でお願いするのが一般的だ。たとえ、フリーモデルであっても同じこと。

2022.03.03
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通常は、モデルが提示している条件と費用が合えば、ポートレート撮影のモデルを依頼することになる。
そうすることで、写真の価値を高めることもできるし、モデルにとっても撮影を受けた実績になるので、相互無償よりお互いの価値につながりやすい。
僕の場合は、自分で撮影の予算を決めて、その予算に合うモデルに有償で撮影を依頼する。
さらに、撮影実績としてSNS、ブログ、サイトへ公開してもいいか、相談をするようにしている。
僕は2021年から2022年の1年間で13名のモデルと作品撮りをしてきた。
毎回、サイトへの公開の相談をしているため、全てのモデルからポートフォリオサイトへの公開許可をいただくことができている。
もちろん、ポートフォリオサイトに公開している作品の中には、無償で撮影をさせていただいたモデルもいるが、基本的には有償でお願いすることが多い。
ポートレート撮影を有償で依頼するということは、それだけ写真撮影に投資をしているため「お互い良い作品をつくろう」というモチベーションにもつながる。
そう、自分の写真の価値を高めるには「相互無償」の撮影を増やすのではなく、撮影の技術を上げるために費やした時間と費用で写真の価値が高まるのである。
相互無償の落とし穴
相互無償という言葉はとても便利だが、そこには落とし穴がある。
撮影の実績を増やすために「相互無償」と発信するのはいいが、無償で撮影ができると思うと心にゆるみがでてくる。
たとえば、
- 無償で撮影しているから、データを渡すのが遅くなってもしょうがない
- 無償で撮影しているから、ある程度こちらのわがままを聞いてもらおえる
- 無償で撮影しているから、お茶くらい誘ってもいいだろう
など。「お金を払う方が言うことを聞いてもらえる」と思いがでてしまい、データの納品が後回しになったり、下心がでてしまったりして、トラブルを引き起こしやすくしてしまう。
相互無償の怖さ
人は「無償」という言葉を聞くと、悪い部分が表に出てしまう悲しい生きもの。
わかりやすくたとえるなら、スーパーの安売りを思い浮かべてほしい。
ワゴンセールで「半額」と放送した瞬間ワゴンの周りは人だらけになって、ひどい場合は、似合うかどうかもわからない服を奪い合うこともある。
家に帰って買った服をよく見たらイマイチで、結局1度も着ることなく捨てられる。
一方で、通常価格で販売している洋服コーナーを見てみると人が少ないため、どんな服が自分に似合うのか集中して気に入った服が購入できる。
その購入した服を翌日に着ることもあるし、長期的に着たいとも思える。
この話を「相互無償」に変換するとこんな感じ。
とにかく無償で撮影をさせてもらえるモデルを探す。
「自分が撮りたい写真が撮れるかどうかわからないけど、無償だし、撮影してみてしっくりこなかったらまた別のモデルを探せばいい」
と気持ちがゆるくなって、撮影した写真を長期間見ずに放置してしまう。
これを、モデルに有償で依頼をするとこうなる。
「しっかり費用をかけたのだから魅力のある写真が撮影できるように集中して、モデルさんにも喜んでもらえる写真にしよう」
と撮影に集中することができる。
そうすればモデル側も「費用を出してでもわたしを撮りたいんだ、うれしい!頑張ろう!」と撮影に真剣に挑んでもらえて安心されます。
安心して撮影を受けてもらう方法
安心してモデルに撮影を受けてもらうには、良いことばかりをイメージするのではなく、何がトラブルにつながるのかをイメージすることも大切である。
トラブルにつながりそうなことをイメージしておけば、万が一、そうなった時の対応が早くにできる。
トラブルにつながりやすいケース
ではここで、ポートレート撮影の時にトラブルにつながりやすいケースを考えてみよう。
- 撮影許可申請が必要な場所なのに申請していない
- 一般の人が大勢いる場所で撮影したため写り込んでしまった
- モデルに事前に衣装についての共有をしていなかった
- 初めての撮影なのに肌の露出が多い衣装を希望してしまった
- 初めてのモデルと室内で撮影を希望した(1 : 1の場合はとくに注意が必要)
- タメ口で話してしまう
- 撮影当日まで撮影内容についての連絡をしていない
まだあるが上記の項目は、無償でも有償でもモデルに撮影をお願いする場合に気をつけておきたい。
モデルと一緒につくるから写真の価値も上がる
ポートレート撮影や作品撮りをする場合、モデルとカメラマンの「1:1」になることが多い。
モデルからすれば、女性カメラマンならまだ不安は少ないが、男性カメラマンと「1:1」の組み合わせは不安になる。
どんなカメラマンなのか知らない上、撮影をしていると、風が強くて乱れた髪を何もいわずにさわってきたり、服が少し乱れているからといって衣装をさわられたり。
「撮影」と語って悪質ないたずらを目的に、ポートレート撮影を依頼をするカメラマンも多いというのを聞いたことがある。
できることなら、撮影当日まではしっかりと撮影時のすり合わせをして、お互いのイメージを話し合い「こんな時はどうしますか?」とモデルに相談することも大切だ。
そうやって相談をすることで、モデルも「このカメラマンと一緒に価値のある作品をつくりたい」と思ってもらえるので、それが価値のある写真へとつながる。
相互無償は新規を受けていない場合がある
ここまで「モデルは相互無償のカメラマンは不安に思われる」と話してきたが、中には「相互無償」で受けてくれるモデルもいる。
だけどそういったモデルのほとんどが、何度か撮影をしてもらったカメラマンもしくは知人のカメラマンだけ受けることが可能という場合。
新規カメラマンからの依頼は、断られることが多い。
僕もポートレート撮影を始めようと決めた時期に、相互無償のモデルにインスタからDMを送ったことがある。
だけど返事は「新規のカメラマンさんは受けていません」と、お断りの返事だった。
モデル側からの「相互無償」というのは、カメラマンと信頼関係ができている上でお互いが同じ目標へ向かうことで成り立つこと。
そう考えると、ポートレート撮影や作品撮りは費用をかけて受けてもらう方が安心してもらえて、お互い撮影に集中することができる。
トラブルを回避するためのチェックは必要
モデルに安心して撮影を受けてもらうためには、カメラマンとしての撮影実績を見てもらえる準備をしておくこと。
モデルにインスタグラムやTwitterのアカウントを伝えることで、どんな写真を撮りたいのか、どんな表現が好きなのかをイメージしてもらえたり、ポージングや表現の参考にもなる。
もし、まだ撮影実績がなければ「なぜ撮影をしたいのか」「なぜわたしをモデルにしたいのか」「どんな活動をしているのか」を伝えるようにしよう。
もしかするとモデルもその想いに共感できれば、初めての撮影でも受けてもらえるかもしれない。
モデルに安心して撮影を受けてもらうためには、次のようなことを意識しておこう。
- 相互無償ではなく有償のモデルを選ぶ
- 事前に撮影のイメージを伝える
- 撮影当日の撮影する前に支払いをする
- 現地集合現地解散が一般的
- キャンセルについての相談をしておく
- 電話番号を聞かないこと(信頼関係があるなら自由)
- 最初はできるだけ屋外で撮影をする
- 撮影後にお茶に誘ったりしない
- 撮影場所の許可申請が必要か確認をしておく
- なるべくモデルには触れない
- 衣装、ヘアメイクはモデルと相談する
このような、細かな気遣いを忘れないようにしておこう。
万が一、トラブルにあった場合の対処法
いくらモデルに安心して撮影をしてもらおうと意識していても、トラブルになってしまうこともある。
そんな時のためにも、事前にモデルと相談することも必要なことである。
ここまで話しておきながら、あまり細かいことを相談されるカメラマンを嫌がるモデルさんもいる。
なので、僕はいつも最初のDMの時にある程度の想いや撮影条件(希望)を伝えるようにしている。
もちろん長文になってしまうが、それでも受けてくれるモデルさんもいて、そういった人と撮影する方が魅力的な写真が撮れる。
最後に
今回は、僕がアート×写真家として活動をしている中で経験したことを元に、「相互無償」のポートレート撮影の違和感について話してきたが、いかがだっただろうか。
なにも「相互無償」が100%悪いというわけではなく、カメラマンとして写真の価値を上げるなら「有償」で依頼した方が、作品として見てもらいやすくなるからだ。
もちろん、何かの理由で「相互無償」にしているモデルもいるので、そういったもの同士で、条件が合えば「相互無償」で撮影をしてもいいだろう。
ただし「相互無償」であっても「有償」であっても、モデルに安心して撮影を受けてもらえるように気配りをすることは大切である。
それと同時に、カメラマンのこだわりも伝えてみて、その想いに共感してくれるモデルと撮影する方が、価値のある写真作品をつくることができる。
僕はアート制作活動もしているが、心が揺さぶられるストーリー性のあるシネマティック写真を撮影する写真家でもある。
ストーリー性のある写真のことを僕は「シネマティック写真」と呼んでいて、動画では感じることができない1枚の写真の中に存在するドラマを大切にしている。
僕がアート×写真家として活動をする理由については、僕が運営している写真家公式サイトで見てもらうことができるので、興味があったらぜひ見てほしい。
スマホのカメラ機能が進化した今の時代だからこそ、一眼レフで撮影する写真家の魅力を感じてもらえるはずだ。
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